俳句カレンダー鑑賞 平成24年5月
- 俳句カレンダー鑑賞 5月
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富士川の河口へ桜海老干しを見に、と小さな吟行会に出掛けたのは、平成17年の5月だった。
広々と河原に拡げられた干海老の、文字通り桜色の発色に歓声を挙げたが、その先の砂丘一面の茅花のそよぎと、点在する花茨の香がまた素晴らしかった。 見上げれば、まだ白雪の富士。そのなだらかな裾が、じっとそれを瞶める師朝人の足元まで届いて見える。
句はそのときのもの。第四句集『一陽来復』に見る。豊かな大河の川底まで続く地の傾斜を、雄渾な富士の裾からの連なりと見て取られた、と思う。高らかに大景を詠い挙げて、自らは眼前に生きる繊細な自然の中に留まって、優しく花と共にある。
さらに句の内に、後年よく口にされた「俳句は生きるあかし」の充隘をも思うのは師亡き今の我々だけではないだろう。(島端謙吉)
花茨川底は地の傾きに
中戸川 朝人
社団法人俳人協会 俳句文学館493号より