俳句カレンダー鑑賞 平成24年6月
- 俳句カレンダー鑑賞 6月
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平成10年作。『渚にて』に所収。
近頃の田植えは、田植機の登場で時間が短縮され、その様相が大きく変わった。代田にエンジン音が響き、赤い襷に菅の笠と歌われた早乙女などどこにも見られない。
変わらないのは、田植機で植えられた田圃に静寂が戻り、郭公が鳴き、早苗が風になびく風景である。
掲句の「早苗の機嫌」とは、早苗が浮いていないか、根を下ろして株を張り始めているかを、確かめること。一言の描写もないが、早苗の呟きに耳を貸す農夫の姿が想像され、その農夫に感情移入する作者の優しい眼差しがある。
山本洋子さんは第51回俳人協会賞受賞作家。
その対象句集となった『夏木』にも〈早苗籠置く唐崎の松の下〉〈屋敷門より玉苗を運び出す〉などの作品があり、早苗に対して懇ろに心を通わせている。(大槻一郎)
膝ついて見るは早苗の機嫌かな
山本 洋子
公益社団法人俳人協会 俳句文学館494号より