俳句カレンダー鑑賞 平成24年8月
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提灯を伸ばせば音や盆支度 斎籐 夏風 伝統習俗が廃れてゆくなかで、お盆はいまだに日本人の生活に密着している。旧盆が夏休みと同一化しているせいもあるだろう。宗教性は薄れても、生くる者が死せる者と心を通わせ合うこの国の風土は変わらない。 盆提灯を伸ばす。ぱりぱりと音がして盆の仕度が整う。絵柄は涼やかな秋草。毎年同じことを繰り返し、年忌を重ねることで悲しみは思い出に変わる。愛した人のいない日々が日常になる。しかし悲しみは薄らいでも、面影が薄らぐことはない。ぱりぱりという音の後には、どのような音が聞こえて来るのだろうか。波の音、蝉の声、国訛りの人声。あるいは音ひとつない静寂か。盆提灯に火を入れよう。帰って来る人が迷わぬように。そして盆が過ぎれば丁寧に畳んで箱に納めよう。来年またその人を迎えるために。 斎藤主宰は平成19年、最愛の奥様を亡くされた。『辻俳諧』収録。毎年お盆の頃になると、苧殻火を焚く主宰の句が発表される。来年は七回忌。(金谷 洋次) 社団法人俳人協会 俳句文学館496号より