俳句カレンダー鑑賞 平成24年9月
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次の間のあるかに庵の萩の庭 上田 日差子 第3句集『和音』所収。本句集により第34回俳人協会新入賞を受賞。
作者は主宰する「ランブル」に、初めて根岸の子規庵を訪れた日についてこう書き残している。 「子規が唱えた写生論を考える余裕はありませんでしたが、子規の庭の草花に触れ、草庵で一時をすごしたことで〈言葉を飾るべからず、誇張を加ふべからず、只ありのまま見たるままに其事物を模写するを可とす〉(『叙事文』明治33年)という一文の意味を受け止めたような気がしました」。
以来、しばしば庵を訪ね、子規忌を詠んでいる。
寝たきりの子規の視界を明るくするために、弟子が障子をとり払い、換えたという硝子戸。その向こうに見えている萩の庭の美しさに立ちつくすのである。この感動が「次の間のあるかに」に溢れている。(井越芳子)公益社団法人俳人協会 俳句文学館497号より