俳句カレンダー鑑賞  平成24年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
天高きまま満月の空となる 岩田 由実
天高きまま満月の空となる 岩田 由実
 待ち望んだ作者の眼前に上った満月。まだ夕暮の明るさを少し残した空だろう。澄み切った天は刻一刻と夕暮の朱色から紫色を帯びてくる。満月の真上の空は、未だ透明感のある空だ。  「天高し」。俳人の心には、この季語が棲み付いている。薄暮でも、秋天は「天高きまま」だ、とそのとき、作者は気付かれたのだ。この気付きこそが、詩人の才である。
 写生に徹する由美さんは、平凡の中に非凡を発見なさる俳人である。
 掲句は、日光から月光に変わるその束の間の秋天の美しさを、絶妙に云い止めた作品であると思う。漆黒の夜更けの満月ではなく、薄墨色の薄暮の天の満月を描いた作品として、私たちの心に残る作品である。一読すれば、私たちは、瑞々しい満月の夜空に誘われ、天の深さを思う。 (名取里美)
 公益社団法人俳人協会 俳句文学館497号より