俳句カレンダー鑑賞 平成24年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
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月光にわが正体を晒しけり 中坪 達哉 掲句は平成20年の主宰誌「辛夷」に発表されたもの。しかし作者がこの句をふと呟かれたのは、平成2年である。
一読、正体とは何ぞやと酔狂な姿まで想像する向きもあるが、日頃の求道的な姿勢を思えば句意は別のところにあろう。
仕事や俳句で多忙な作者は、自宅での予定を考えながら帰途を急ぐのが常であるが、そのような誰も知らない独りの家路を月が照らしている。
もとより、天も地も本人も自分の真の姿を知っているのだが、作者は降り注ぐ月光にそのことを強く感じ、隠すべくもない自分を「正体を晒す」と主体的に表現された。
鑑賞の余地の広い作品であるが、通常の景を幾度も見つめ直し、真に迫っていくのが作者の精神風土である。
師の代表作品に相応しい立句であると思う。(山元重男)公益社団法人俳人協会 俳句文学館497号より