俳句カレンダー鑑賞  平成24年10月

俳句カレンダー鑑賞 10月
貫禄のかくも汚れて鹿の秋 八染 藍子

 昭和54年厳島での作。  秋は鹿の交尾期で、典雅な和歌ではパートナーを求める哀切な啼き声がもっぱら好まれた。その点俳諧は、美も醜も持つ有りのままの個体として鹿に向き合う。  牡鹿は立派な角を振り立てて牝鹿の気を引こうとするが、野生動物が伴侶を得ることは、そう容易いものではない。「かくも汚れて」は、生命を賭しての活動の痕跡だ。  「貫禄の」と、最上の讃辞の上五から中七の逆転へ。力強さと哀れの、本能の両面が活写された。さらには季語。「秋の鹿」ではなく「鹿の秋」としたことで、鹿が秋という季語を統べる格好になり、上五の「貫禄」と呼応する。  頭韻による韻律も句に格調を与えていよう。  鮮やかな詞藻で感動を描ききった、初期の代表句である。(櫨木 優子)
貫禄のかくも汚れて鹿の秋

八染 藍子

 社団法人俳人協会 俳句文学館498号より