俳句カレンダー鑑賞  平成24年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
茶の咲ける夕べは声をつかはざる 山尾 玉藻

静かな景である。茶の花が咲く初冬の夕暮れを過ごす玉藻主宰と夫の岡本高明である。信頼と愛情で結ばれ「高明」「玉藻」と呼び合う二人に、もう言葉はいらない。
玉藻は「火星」を創刊した岡本圭岳を父に、それを継いだ差知子を母に生まれた三代目の主宰である。俳句一筋の父を支える母の苦労を見て育ったにも関わらず、中年を過ぎて選んだ伴侶も、また酒と煙草をこよなく愛する根っからの俳人岡本高明であった。
俳人同士の夫婦の葛藤は、年月を経て二人の結び付きをより強固なものにした。しかし運命は残酷だ。今年7月、ひと月にも満たない入院の後、岡本高明は儚く身罷ってしまわれた。 一人になられた玉藻主宰の深い悲しみに、また茶の花が咲く季節が巡ってくる。
(大山文子)
茶の咲ける夕べは声をつかはざる

山尾 玉藻

 社団法人俳人協会 俳句文学館499号より