俳句カレンダー鑑賞 平成26年9月
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菱の実売る水の城市の石の橋
福永法弘中国周荘での作。周荘は900年の歴史を持つ水郷都市で、江南の水運商業の要衝として栄えた。今でも明・清代の家並、運河、石橋が残り、かつての繁栄を偲ばせる。
街頭で売られている菱の実は、土産物であろうか。菱の実は、澱粉が豊富で栗のような味がし、強壮等の薬効もあるという。昔は、重要な食糧であったに違いない。 菱の実売りの声を傍らに、しばし石橋に佇むと、秋風に混じって低い櫓櫂の音が聞こえる。疲れた目に水面が眩しい。
気付くと、心はいつしか数百年前の周荘に遊んでいる。絹や白酒を売る行商の小舟が行き交い、酒楼からは女たちの笑い声が漏れる。
作者はこの情景と心象のすべてを、眼前の「石の橋」ひとつに託した。
読者は季語を頼りに、想像を広げるばかりだ。
第2句集『遊行』所収。 (陽美保子)公益社団法人俳人協会 俳句文学館521号より