俳句カレンダー鑑賞 平成26年10月
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秋風の吹く清流の河原に来て、川の水を握ってみる。みんなの指の間からこぼれていく。
握手とは、握る相手と仲良くなる儀式である。水を握ろうと思っても、握れない。水は掌で「掬う」か容器で「汲む」もののようである。「水をにぎれば水の音」だけが残される。握れない物を握ったときに、そこには固体としての実体のない音しかなかった。握ろうとして掌からこぼれた水は、音だけを残して元の営みに戻る。握ろうとした手に、水に応えてもらえなかったという無常感、寂寥感が残る。
自然の万物にはそれぞれの生き方があり、営みがある。水の音にそれを象徴させ、自然との共生を詠ったとみる。深まりゆく秋の風が、残された景色を透明にしてゆく趣がある。(彦坂 正孚)秋風や水をつかめば水の音
伊藤通明
公益社団法人俳人協会 俳句文学館522号より