俳句カレンダー鑑賞  平成27年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
空海の筆勢夏に入りにけり 野中亮介

 空海という名は、共に青く広い空と海の字から成り立っている。さらにその名を聞いて思い浮かべるのは、高野山金剛峯寺の深い木立と『風信帖』に代表されるその能筆であろう。
 掲句はこうしたイメージを、一句の中に美しく融合させている。つまり固有名詞が動かない。
 句の韻律もイ音を多用し、鋭く冷ややかな世界を作り出している。
 掲句を音読すれば青く広がった夏空の下、金剛峯寺の森を吹き抜ける風を感じることができるだろう。
 さらに濁音がなく、一気に読み下すことができる句の姿勢は涼風の夏木立そのものだ。簡単に詠まれているようでありながら、様々な工夫が凝らされている。
 作者は「韻律は内容を駆逐する」と言う。句の調べ、韻律を最も大切にし、私意を挟まない姿勢はいかにも秋櫻子直系の作者らしい。
(中田恵美子)
空海の筆勢夏に入りにけり

野中亮介

 社団法人俳人協会 俳句文学館529号より