俳句カレンダー鑑賞 平成27年8月
- 俳句カレンダー鑑賞 8月
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残暑の一日の終わりはほっと肩の力が脱けてゆく時間だ。作者は先年、次姉・長姉と次々に亡くされ、新盆を迎えられたばかり。暮れ急ぐ法師蟬の声が、諸行無常の世には「暮るるな暮るるな」と鳴いているように聴こえる。
歳を取るということは経験したことのない時間と向き合っていくということ。面白いじゃない、楽しみよ、と前向きに考えては見るものの、今年で次姉の享年と同じ齢を迎えることへの戸惑いは隠せない作者。
ツクツクボーシ、ツクツクボーシ...、そしてジーと鳴きおさめ、鳴き暮れてゆく法師蟬のその向こうに、ひとり残され行き暮れた作者自身の後ろ姿が見えてくる。
次姉は俳句にも興味を持ち、作者の指導の下、〈病むことは生きてゐること遠花火 吉武輝子〉等の佳句を遺す。
御霊へ届けとばかり、法師蟬が鳴く。
(安田のぶ子)暮るるなと鳴き暮れてゆく法師蟬
山川幸子
社団法人俳人協会 俳句文学館532号より