俳句カレンダー鑑賞 平成28年3月
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平成24年5月、俳誌「万象」に発表された。作者は千葉県在住。椿で有名な南房総夷隅郡大原での嘱目。
晩春、潮の干満の差が小さくなる長潮の頃だろう。椿垣を巡らした海沿いの鄙びた集落が目に浮かぶ。椿垣には自生の古木や、後から植え足した若い椿もある。枝も葉も疎らで、内からも外からも物が透けて見える素朴なものだが、ほつほつと咲く椿が美しい。
作者の目の根底にはこの土地に住む人々への思いがあり、省略した表現から自然に従って生活する人々の息遣いやしたたかさをも感じる。
句の中心は「優しき日なり」。切れを伴って中七で安定し、句意を確かなものにしている。風土の人間生活を直視して「椿垣」というモノが動かない即物具象の句である。(内海 良太)しほさゐの優しき日なり椿垣
大坪景章
社団法人俳人協会 俳句文学館539号より