俳句カレンダー鑑賞 平成28年5月
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舩よりも白き航跡夏はじまる
鷹羽狩行今年は5月5日が立夏である。若葉が明るい光を照り返し、大地は生命力に満ちてくる。天候も安定しており、からりと晴れ渡る日が多い。
この句は真っ青な海を進む白い船と、航跡という至ってありふれた素材のみで成り立っている。すなわち類句の山に呑み込まれそうな素材なのであるが、そこを抽んでるこの句の鮮度の高さに目をみはる。
作者は以前、片山由美子氏との対談の中で「『子供の心で大人の表現』、これが俳句の一番難しいところ」と言われていた。瑞々しい精神と質の高い表現力ということであろう。子供の心で、一瞬にして、白い船よりも船に続く飛行機雲のような航跡の方が鮮やかだと感受されたのではないか。
その景を一旦己が身に取り込み句を構築するときに、選び抜かれた言葉が〈よりも白き〉だ。また字余りの〈夏はじまる〉も若々しい印象を与えている。技術を気付かせない大人の表現で、躍動する初夏という季節が生き生きと捉えられている。
(柴田佐知子)社団法人俳人協会 俳句文学館541号より