俳句カレンダー鑑賞  平成28年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
大滝へ花冠の巫女捧ぐ 田中水桜

 熊野那智大社の別宮飛龍神社では、大滝を御神体として崇めている。
 日本一の水量と落差を誇り、自然崇拝の象徴として信仰の対象となっている。
 掲句は、7月の神事である「扇祭」に遭遇したときの作であろうか、花冠の巫女舞の最中であったようだ。
 神鈴を鳴らしながら舞う姿に、古より伝わる「人身御供」のことばが頭を過ぎったという。原案は〈大滝へ花冠の巫女舞はす〉であったが、〈舞はす〉では弱いと感じ〈捧ぐ〉と断定した。断定し、より深味のある句になったと思われる。
 群青色の原生林に大滝の轟音と神鈴、衣裳の彩色が溶け合って荘厳な雰囲気を漂わせている。
 御神体の大滝を好しとして巫女舞を賞でたたえる様は、一幅の画のように瞼に焼き付いたのであった。『田中水桜集』所収。(多々良敬子)
大滝へ花冠の巫女捧ぐ

田中水桜

 社団法人俳人協会 俳句文学館543号より