俳句カレンダー鑑賞  平成28年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
生身魂京の食板しかと打つ 松本旭

 松本旭は昨年の「橘」5月号に「カレンダーの依頼」と題した巻頭作品を発表し、その5句目に?平成28年度俳人協会カレンダー執筆依頼あり?の前書で〈さても真夏一句をしかと身に沁ませ〉の句を掲載している。
 97歳を目前にして、なおも自らの作品を望まれたことが嬉しく、光栄であったのだろう。
 旭は京都や奈良をこよなく愛した。掲句もそんな京都のとある寺院の景であろう。今でも「生身魂」の行事が行われ、開始の合図でもあろうか、力強く「食板」が叩かれたのである。
 残暑厳しい京都に響く乾いた食板の音に、連綿と受け継がれてきた歴史の重さを全身で感受する旭が、そこには確かに立っている。
 残念ながら、旭は平成28年を迎えることなく、昨年10月30日に俳句人生を全うして旅立った。
(佐怒賀直美)
生身魂京の食板しかと打つ

松本旭

 社団法人俳人協会 俳句文学館544号より