俳句カレンダー鑑賞 平成28年9月
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別れては新たな旅よ水の秋
鍵和田秞子平成15年の10月、大垣での作。作者はその年、芭蕉蛤塚忌全国俳句大会で講演をされた。秋晴れの一日、小舟の縁から水面へ手を差し伸べて、献句を流された作者の姿を鮮明に記憶している。
言うまでもなく、芭蕉の〈蛤のふたみにわかれ行秋ぞ〉を念頭に置いての句。この『奥のほそ道』掉尾の句の底には、旅の終わりは新たな旅の始まり、人生は永遠に続く旅の途次でしかないという思いがある。
良質な地下水が湧き出る大垣の地を終日巡る中で、芭蕉の句に触発されて自ずと生まれた句であろう。芭蕉の句を踏まえつつも、この句が詠まれているのは、作者自身の心に湧き起こった感慨である。古人に思いを馳せ、やがてそこから離れて、自身の詩心を高めて得た句だ。
〈別れては新たな旅よ〉という一語には、俳人としての旅もまだ半ば、未来は限りなく続いていくという思念が籠められている。
この伸びやかな意志こそが鍵和田秞子という俳人の真骨頂であり、10年以上経た今もなお、未来を見つめ続けている。 (遠藤由樹子)社団法人俳人協会 俳句文学館545号より