今月の俳句

俳句カレンダー鑑賞 12月
大綿や日ぐれは昔むらさきに 大野林火
大綿や日ぐれは昔むらさきに

大野林火
 老境自在の第十句集『方円集』所載、昭和51年の作品である。
 アブラムシは晩秋から初冬にかけて羽を持つ成虫が生まれ、〓を身に纏って飛ぶ。これが大綿だ。風に靡いて流れるように飛ぶので、さながら雪のようだ。雪虫といわれる所以だ。どこかなつかしさがある。嘗て子どもたちは、大綿を追って遊んだりした。捕まえようとしても躱されてしまう。それが楽しく、夕ぐれ、子どもたちはいつまでもたわいない遊びに興じた。林火もそうした光景に出会ったか、ことによると自身の体験かも知れない。この句はそんなふうに読める。
 林火には日ぐれを詠んだ句が多い。〈雀色時雪は光輪持ちて降る〉(昭和31年)〈夕焼川あはれ尽くして流れけり〉(昭和52年)などを上げる。
 前々年満齢古稀を祝われている。老境、ときに過去に溯って懐かしんでいる。日ぐれのむらさきはゆっくりと林火を包んで遠い昔へ誘ってゆく。
(太田 土男)
 社団法人俳人協会 俳句文学館643号より