今月の俳句

俳句カレンダー鑑賞 4月
苧環や木曽路は水の音の中 蟇目良雨

 苧環は、日本では花の形が機織りに使う糸繰に似ているところから名付けられたという。
 水量の多い山地に、青紫色や淡い青色で俯き加減に咲く様子が清楚で美しい花である。
 暫く眺めていると、水音に混じって少女たちの声が聞こえてきた。
 この地は、近代化を推し進めた明治政府の外貨獲得産業の製糸業に係わった多くの少女たちが、工場のある信州諏訪の岡谷まで飛騨の急峻な峠を越えて通った路である。
 その仕事は1日12時間にも及ぶ過酷なものだったという。詳しくは『女工哀史』や『あゝ野麦峠』に書かれている。
 そんなことを想っていると、突然少女たちの声が水音に掻き消され苧環が風に揺れていた。
 まるで白昼夢の様な体験だった。
(倉林 美保)
苧環や木曽路は水の音の中

蟇目良雨

 社団法人俳人協会 俳句文学館647号より