今月の俳句

俳句カレンダー鑑賞 3月
前髪を揃へ三月三日の子 才野 洋

 「三月三日」と言えば雛祭、雛人形、華やかな着物姿、笑い声や賑やかな女の子達の様子が目に浮かぶ。楽しいイベントに参加している少女達の姿をいかに表現すべきか。
 掲句は作者の初期に属する句である。「雛祭」の語を使わずに雛祭を詠む事を目指したと聞いている。雛祭に誘われ出席する子や招く側の子を想定し、それなりに着飾った少女達の服装よりも、むしろ前髪を切り揃えたばかりの〝おかっぱ髪〟に着目した。この髪型により、この少女の年齢や服装も想像できる。「三月三日」とあれば「子」だけでわざわざ「娘」「少女」と詠む必要はないであろう。
 この句の独自性は「前髪を揃へ」と髪型のみに注目し「雛祭」と詠まずに「三月三日」の初々しい少女の姿を連想させるところにある。
(吉田 鈴子)
前髪を揃へ三月三日の子

才野 洋

 社団法人俳人協会 俳句文学館646号より