俳句の庭/第14回 いぼたの花 藤本美和子
藤本美和子 平成26年より「泉」継承主宰。公益社団法人俳人協会理事。 句集に『跣足』『天空』『冬泉』『現代俳句文庫藤本美和子句集』、著書に『綾部仁喜の百句』など。第23回俳人協会新人賞受賞。 |
六月頃、山荘の一角に白い小花を咲かせる木がある。以前から気になりながら、花の名は知らぬままだった。
この木を植えた心当たりもなく、多分実生の一本であろうと思いながら、ここ何年かそのままに過ぎていたのだった。
ところが、今年、みごとに花を付けた木を見てどうしても花の名を知りたくなった。ネットであれこれ検索中、ヒットしたのが「いぼた」だった。なかでもライラックの台木として使われるという情報が決め手となった。
ライラック、と聞いてはたと思い当たることがあった。その場所には何年か前、確かにライラックの苗木を植えたことがある。ライラックは花を咲かせることもなく、植えたことさえ、疾うに忘れていたのだった。
「水蠟樹」とも書くこの「いぼた」。辞書には「ギンモクセイに似た芳香ある白花を穂状につける」とあるようにモクセイ科の落葉低木。匂いには気が付かなかったが花の形は確かにギンモクセイに似ている。清楚な花だ。夏の季語でもある。
さらに調べると、この樹皮につくのが「イボタロウムシ」であることもわかった。飯島晴子が
うしろからいぼたのむしと教へらる
と詠んだ虫だ。そう思うと俄かにこの虫にも会いたくなった。
またこの樹木で作った箸を使うと短気が治る、と教えてくれる人もいた。
秋には黒い小さな実をつけるという「いぼた」。台木が齎してくれた思いがけぬ楽しみである。