俳句の庭/第18回 トッチート・トトチート 西村和子
ふだん聞き慣れている鳥の声が、外国に行くと違って聞こえる。言語は異なっても囀りは万国共通だと思うのだが、心なし新鮮に聞こえるのだ。
語尾つよくうたふ高麗鶯は 『心音』
中国の鶯はひときわ麗わしく響いた。まさに朗々と春を歌っているようだった。「ケキョ」までくっきり響かせるのだ。
王宮の窓にひらめき岩燕 『鎮魂』
マドリードの燕たちは実に華やかだった。いつまでも暮れぬ窓に写りこんで、飛翔を楽しんでいた。
スイスの山道ではさまざまな小鳥たちが語りかけてきたが、中でも一段と長々しく囀るのがいて、注意深く聴いてみると最後が英語に聞こえる。ドイツ語圏をトレッキングしながら、その聞き做しに興じたものだった。
ウイズユーと語尾くり返し囀れる 『鎮魂』
パリでは雀たちも流暢なフランス語を語っていた。人間を怖がらないことにも驚いた。
我が窓に来鳴く小鳥も仏蘭西語 『わが桜』
鳴き声の聞き做しは楽しいが、鳥の名はほとんど知らない。「囀り」や「小鳥来る」「寒禽」と詠むことが多い。しかし一つだけその名を知りたい鳥がいる。草津の夏の終わりに落葉松の梢で愛らしい声を聞かせてくれるのだが、姿を見たことはない。「トッチート・トトチート」と鳴く鳥を、どなたかご存知ないだろうか。