俳句の庭/第19回 家族 櫂未知子
櫂未知子 略歴 かい・みちこ 北海道余市生まれ。佐藤郁良と共に2013年「群青」を創刊、代表となる。句集に『カムイ』、著書に『季語の底力』『季語、いただきます』『食の一句』などがある。 |
三年前だったろうか、「群青」の有志と鶴で有名な九州の出水に行ったことがある。年に二回行っている一泊の合宿とは別に、ごく少人数で俳句三昧の三日間を過ごそうではないかという試みだった。それまで郷里の北海道で丹頂は見たことがあった。しかし、丹頂は留鳥のため季節感は薄弱である。
歳時記の春の動物の項目に「引鶴」があるのを見るにつけ、「はたして、これって実感できるのかしら」と思っていた。ところが、出水に行ってみたら、それはそれはたくさんの数の鶴がいて仰天した。聞けば、鶴が安心して過ごし、帰っていけるように、市が田圃を借りて鶴を保護しているという。
引鶴の雲居の声の落ち来る 大橋桜坡子 『引鶴』
出水の空を飽かず眺めていると、ぽつりぽつりと旅立ってゆく群れが見られた。そうかと思えば、まだ地にとどまって、あれこれついばんでいる鶴もたくさんいた。煤の付いたような鍋鶴、そして真鶴。圧倒的な数の鶴を見ていた時、市のかたの説明に心打たれた。すなわち、「だいたいの鶴は家族単位で遠い旅をするようです」。ああ、そうか、鳥にも家族がいるのだと。
コロナ禍の今、家族だけで家に引きこもることに慣れてしまった。しかしそれがかえって、家族間の軋みを生み出す結果ともなっている。鶴を思い出しつつ、「せっかくなら、家族や気心の知れた人たちと旅をしたい」と切に願った。