俳句の庭/第62回 月 德田千鶴子
德田千鶴子 俳句結社「馬醉木」主宰。一九四九年、産婦人科医の祖父に八王子で取りあげられ生まるる。二〇一二年、秋櫻子、春郎に継ぎ三代目主宰に。 句集に『花の翼』。編著に『水原秋櫻子句集 群青』他三冊。 |
相槌の欲しき夜もあり胸の月
気づいてみれば、私が月を仰ぐのは、心が沈んだ時かもしれません。
太陽の明るさは、正面から対峙できませんが、月はゆっくりと心に沁みます。輝いても滲むでも眺めているうちに慰められます。
夫との当り前の日常が崩れての日々。一人の生活に馴れても、ついつい話しかけている自分がいました。
その日の些細な出来事や思いを、実は聞いているかどうかわからないけれど、傍にいて相槌いてくれるだけで安らいでいた事に、今更ながら気づきました。
失ってから知る何気無い時間、月は常に私の胸にあります。