俳句の庭/第71回 ヨーロッパ・アルプスとセガンティーニ 角谷昌子
夏季休暇などを利用して、15年間ほど青少年の海外派遣プログラムのボランティア通訳を務めた。主にヨーロッパやアメリカ、オセアニアが派遣先で、大都市ばかりでなく、地方都市も巡った。
想い出深いのは、スイスを代表するリゾート地のサン・モリッツに到るまでのアルプスの名峰や森林を巡る登山鉄道だ。眼前に次々と展開する緑豊かな絶景に時が経つのを忘れて見入った。
万緑を押し開きゆく列車かな
サン・モリッツには、ずっと行きたかったセガンティーニ美術館がある。19世紀のイタリア人、ジョヴァンニ・セガンティーニは、アルプスの風景画家として知られており、ことに「生」「自然」「死」のアルプス三部作は、心象世界にまで到り、崇高な雰囲気が漂う。石造りの美術館は、彼が作品制作中に急逝した山小屋の方向を向いて建てられている。画家の魂は、いまでもアルプスを天上から俯瞰しているに違いない。