俳句の庭/第71回 ヨーロッパ・アルプスとセガンティーニ 角谷昌子

角谷昌子
東京生まれ。鍵和田秞子に師事。「未来図」終刊により、現在、「磁石」同人。俳人協会理事、国際俳句協会理事、日本現代詩歌文学館評議員、日本文藝家協会会員。「俳句の水脈・血脈 ―平成・令和に逝った星々」(角川文化振興財団『俳句』)、「いきもの歳時記」(本阿弥書店「俳壇」)を連載中。江東区芭蕉記念館主催「英語俳句講座」講師。著書に句集『奔流』『源流』『地下水脈』、評論集『山口誓子の100句を読む』、『俳句の水脈を求めて―平成に逝った俳人たち』(俳人協会評論賞)、ほか。

 夏季休暇などを利用して、15年間ほど青少年の海外派遣プログラムのボランティア通訳を務めた。主にヨーロッパやアメリカ、オセアニアが派遣先で、大都市ばかりでなく、地方都市も巡った。
 想い出深いのは、スイスを代表するリゾート地のサン・モリッツに到るまでのアルプスの名峰や森林を巡る登山鉄道だ。眼前に次々と展開する緑豊かな絶景に時が経つのを忘れて見入った。
  万緑を押し開きゆく列車かな
 サン・モリッツには、ずっと行きたかったセガンティーニ美術館がある。19世紀のイタリア人、ジョヴァンニ・セガンティーニは、アルプスの風景画家として知られており、ことに「生」「自然」「死」のアルプス三部作は、心象世界にまで到り、崇高な雰囲気が漂う。石造りの美術館は、彼が作品制作中に急逝した山小屋の方向を向いて建てられている。画家の魂は、いまでもアルプスを天上から俯瞰しているに違いない。