俳句の庭/第73回 羽黒山 德田千鶴子

德田千鶴子
俳句結社「馬醉木」主宰。一九四九年、産婦人科医の祖父に八王子で取りあげられ生まるる。二〇一二年、秋櫻子、春郎に継ぎ三代目主宰に。 句集に『花の翼』。編著に『水原秋櫻子句集 群青』他三冊。

  羽黒山据ゑて案山子の傾ぎける 千鶴子

 コロナの期間をへて、気づけば足の衰えを実感しました。
 歩く心配のなく、羽黒山の二五〇〇段を登った時の達成感が忘れられません。
 天然記念物の杉並木の修験道を歩むうちに吟行とは違う深思な思いが生まれました。
 出羽三山の月山と湯殿山。
 役小角の修験道を、羽黒山の宿坊で省みた時、雷が轟きました。登った事で満足していた自分を叱咤されているような気がしました。
 出羽平野の黄金の波打つ田の、豊かで平和な姿。これぞ日本の原風景と思いました。
 羽黒山の見守るこの景が心に焼きついています。
 高い山であろうと、低い山であろうと、山は思い出の大切な拠り所です。訪れた地の印象の中に、必ず山の姿があります。掲句の遠景の「据ゑて」と近景の「案山子」。
 出羽平野の大景を詠みたいと思いました。今でも、あの時の日の輝き、風の匂いを覚えています。
 自然を大らかに詠みたいと願っていますが、それにはもっと歩かなくては。
 頭で考えるのではなく、直に触れる景を詠みたいと思っています。