今日の一句:2025年01月

一月一日
つねつねははありお元日がんじつ西嶋あさ子

三ヶ日は水仕は少ないものの、まずはお雑煮。大晦日のうちに、とり肉、小松菜、大根、里芋の用意もすますが、厨の仕事はまず母に始まる。

「西嶋あさ子集」
自註現代俳句シリーズ八(七)

一月二日
かざり臼鶏うすとりけあがりはれけり宮下翠舟

一月二日、恒例の房州艸魚洞年始参上。付近の農家の正月風景を見て回ることも常の通りだが、何かしら新しい発見をすることの楽しさ。

「宮下翠舟集」
自註現代俳句シリーズ三(三三)

一月三日
はしののりて大冊読たいさつよみはじめ皆吉爽雨

初春のめでたい日ざしが書斎に及び、読み初めに選んだ書物が眩しく開かれている光景。この頃盛んになった名著の復刻版か、大切な蔵書などが想像される。端に日ののりて、という淡泊な座辺の描き出しで、新年の富貴が充分にただよう句である。(蕙子)

 
「皆吉爽雨集」 脚註名句シリーズ一(二二)

一月四日
がんあらひをるよっかな鈴木良戈

往診先での句である。癌には暮も正月もない。年を越して、心なしか癌が少し大きくなった。一家の大黒柱の中年男性の胃癌である。

「鈴木良戈集」
自註現代俳句シリーズ八(四三)

一月五日小寒
しもがこいしありしゆえのぞかるる後藤比奈夫

一月五日芦屋玉藻会の初句会。年尾、播水、杞陽先生他出席とある。裏庭に霜囲をされているものが一つあって、その故に人目を蒐めていた。

「後藤比奈夫集」
自註現代俳句シリーズ一(一八)

一月六日
あかシヤッツがないまつうちよごれ星野紗一

ちょっと気取って、元日から赤いシャツを着た。そしてとうとう松の内中着つづけてしまった。

「星野紗一集」
自註現代俳句シリーズ四(四三)

一月七日
白粥しらかゆのすずなすずしろうすみどり田島和生

正月七日の七種粥は、早春の色に満ちている。それに、大変おいしい。

「田島和生集」
自註現代俳句シリーズ一一(四〇)

一月八日
はつ湯出ゆでつまのクリームわれ小林波留

妻の大事なクリームを失敬して塗って見る。末子の娘も真似ておしゃれする。普段なら妻が愚痴るところだが、初湯上りとて見ぬ振りであった。

「小林波留集」
自註現代俳句シリーズ一〇(四六)

一月九日
初日はつにっ記薔薇きばらえんぎょうぎょうほど原田青児

一、二月にかけて、人々の注目しない間が、もっとも忙しい。追肥・移植・新苗の定植・強剪定・強消毒と、つまり一年の基礎づくりである。

「原田青児集」
自註現代俳句シリーズ五(三三)

一月十日
もうひと間欲まほしとつぶやきはつこう大島民郎

新築当時は広いと思ったが、大正生れは捨てるのが下手で、いつのまにか家財の山に囲繞され、五尺の身の措き処に苦しむ破目となる。切実な嘆き。

「大島民郎集」
自註現代俳句シリーズ三(七)

一月十一日
子等こらゆゑのつまはつきあはれなり山崎ひさを

泣いたことは確かなのだが、さて何が原因であったか、そのあとどうしたのか。歳月が茫々と心の傷を癒してくれた。

「山崎ひさを集」
自註現代俳句シリーズ四(五三)

一月十二日
あさくさのかみなりもんはつすずめ今井杏太郎

神様とか佛様に手を合わせることが照れ臭いなどとは、とんでもない罰当りである、と思っている。

「今井杏太郎集」
自註現代俳句シリーズ六(四六)

一月十三日
成人せいじんれぎはの波荒なみあら舘岡沙緻

鴨川の夕波はやはり太平洋の波である。風も出てきた。

「舘岡沙緻集」
自註現代俳句シリーズ七(一二)

一月十四日
はらひたるささだねおおとんど有吉桜雲

左義長神事の祓い笹がどんど火の火種となる。めでたし、めでたし。

「有吉桜雲集」
自註現代俳句シリーズ八(四五)

一月十五日
はつもうでしてパチンコにびた右城暮石

「ぼくの煙草はみなパチンコの景品でねぇ」と言っていた暮石がパチンコをよくしていたのは、技術がものをいったパチンコ台の時代である。奈良での正月も今年をふくめて二度と思うと、懐かしさがこみ上げてきてこんな句も生まれたのである。(茨木和生)

 
「右城暮石集」 脚註名句シリーズ二(八)

一月十六日
石祀いしまつ日限ひぎりのかみほうとす松本 進

栃木市にある日限浅間神社には、古河に住んでいた時から毎年一月に詣でている。願が叶って奉納された鳥居が肩ふれ合って立ち並ぶ。

「松本 進集」
自註現代俳句シリーズ七(四)

一月十七日
まつられてかれにまぎるるわらへび宮津昭彦

市川市付近には辻切という風習が残っている。村の境界に藁で作った大きな蛇を懸け、災厄や厄病が村に入るのを防いだ。

「宮津昭彦集」
自註現代俳句シリーズ・続編八

一月十八日
いしにのりしうてなも福寿草ふくじゅそう塩崎 緑

台(うてな)は植物のガク。鉢植えの福寿草の成長ぶりを写生しているうちに、〈石の面にのりしうてな〉という情景が設定できた。

「塩崎 緑集」
自註現代俳句シリーズ六(一〇)

一月十九日
読初よみぞめこえしてめい科白せりふ杉 良介

『声に出して読みたい日本語』という本がベストセラーとなり、数冊を買って、歌舞伎の名科白などを暗誦して喜んでいた。

「杉 良介集」
自註現代俳句シリーズ・続編二七

一月二十日大寒
ほねしょうがつきょうつかれすでに淵脇 護

骨正月は二十日正月のこと。有数の進学校だった勤務校は、正月元旦から特別補習などを展開、教師は常に疲れ気味であった。

「淵脇 護集」
自註現代俳句シリーズ一二(九)

一月二十一日
読初よみぞめぺーじたにをふかく仲村青彦

『子規全集』は各巻分厚く、ルーペによる開きぐせが前年をすぐに呼び起こす。

「仲村青彦集」
自註現代俳句シリーズ一一(五八)

一月二十二日
はるとなりけいはなべてベレーぼう能村研三

私の俳句の師匠である能村登四郎、林翔、福永耕二は共に私が卒業した市川学園の教師でもあったが、三人に共通していたのはベレー帽を被っていたことである。禿頭の登四郎には頭の防寒対策であったのかも知れない。

 
能村研三  令和5年作