俳句カレンダー鑑賞 平成22年1月
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初凪や大海原に島七つ 水原春郎 「俳句」平成20年2月号に掲載。伊豆高原の徳田山荘からの眺めかと思われる。
「初凪や」と高らかに打ち出して、「大海原に島七つ」とゆったりと受ける快さは、まさに秋櫻子先生の調べである。大景に真向かって一歩も引かない覚悟のほどが潔い。
二十余年前、〈夜の薄暑チェホフもまた医師なりし〉〈ぼろ市のもどりのおかめうどんかな〉〈検眼のコナルカロフニ冬うらら〉などの句をもって颯爽と俳壇に登場された頃の春郎先生は、わざとのように秋櫻子先生とは対照的な素材に興味を持たれ、秋櫻子夫人をはらはらおさせになったようだ。
しかし、幼い時の折々の家庭俳句会で自然に身についた俳句の骨法をわきまえた上での冒険は、結果として馬醉木俳句の幅を広げるという大きな効果をもたらしたように思う。
既成の型にも発想にも素材にも捉われず、自在に詠んでいらっしゃるように見えながら、年頭に当たってはこのような句をきっちりとお作りになる。血というものであろうか。
(渡邊千枝子)社団法人俳人協会 俳句文学館465号より